安全意識の希薄な消費者 中編「安全装備への誤解」

2017/01/15

持論・暴論 車の安全



車を買う多くの消費者は標準装備される安全装備については無関心か、誤った認識を持っている。売り手にしても同様で、勉強不足なのか、とにかく商談を進めたいが故か、ユーザーに十分な説明をせずに販売している例が多々見受けられる。酷い営業になると「この車は剛性が高いので、サイドエアバッグは無くても大丈夫」などと頓珍漢なことを言ってくることもあるのだ。
ここではそんな誤った情報を幾つか挙げてみようと思う。



古い車のほうが安全である!?

信じがたいことだが、年配者の中にはこういう考えの人が実際に居る。実際のところ、同形式、同重量の車両同士であれば設計の新しいものの方が安全なのは当然のことなのに、である。どうもこういう人種は最近の樹脂のバンパーや厚ぼったいボンネットの車が気に入らないらしい。確かに古いボルボは四角くいかにも頑丈そうな印象ではあるが……。

※トップのテスト動画は、日産サニー(B13)とラティオ(N17)の衝突試験を行ったものなので、是非確認してみよう。基礎設計が1990年の車両がいかに時代遅れかが分かるだろう。(前者は日産ツルの名称で2017年5月まで生産される)

ちなみにホンダ車のボディーが脆弱というのも使い古された伝説の一つで、北米における主力であるアコード、レジェンド等は非常に立派な安全性能を持っている。現在大真面目にそんなことを言うと恥をかくので要注意だ。


エアバッグがあればシートベルトを着用しなくても良い!?

これも私が実際に聞いたことのある妄言の一つ。エアバッグの装着場所にSRS(Supplemental Restraint System)と書かれているのをご存じの方も多いと思うが、これは補助拘束装置の意味で、あくまでもシートベルトの着用を前提とした物であることを示している。シートベルト未着用であれば、却ってエアバッグ展開時に強力な顔面パンチを食らって状況を悪化させることになりかねない。


後部座席はシートベルトの着用をしなくても良い!?

日本における後部座席シートベルト着用率は驚くほど低い。具体的数値を挙げれば、2007年時点でアメリカ、スウェーデン等が75~90%近い着用率であるのに対して、僅かに13.5%(一般道では8.8%)に過ぎない。2016年時点においても、高速道路で71.8%、一般道で36.0%という悲惨な数字である。
衝突事故発生時、後席乗員のシートベルトが未着用であれば本人の車外放出のリスクが高まる(※)だけでなく、前席の背もたれを破壊し、運転席や助手席の乗員にも危害を加える可能性が高い。運転手は自衛のためにも、全乗員のベルト着用を促すべきである。

※公益財団法人交通事故総合分析センター2010年調べによれば、着用と非着用では死亡率に3.5倍の差がでるという。


ABSを作動させると制動距離が伸びる!?

これは嘘とも本当とも言えない部分。初期のABSの低性能からこういう事もよく言われているが、現在では多くの場面でABSが最適なブレーキングを行ってくれるので安心して良い。しかし、新雪や砂利道などタイヤがロックした状態の方が制動距離が短くなる場合もあるため、メーカーとしても制動距離短縮の効果を謳っていないのである。


サイドカーテンエアバッグは無くても良い!?

これは上記の通り、車の営業マンでも軽視している人がいるくらいで、私が初めてオプションで装着した車を購入したときなど「なんでわざわざ」と、ある先輩から言われたものである。
IIHSが2003年に発表したところによれば、サイドカーテンエアバッグの有無だけで死亡者の数に45%もの開きがあったという。米国運輸省でも2004年から普及活動に取り組んでおり、安全性を重視する上では必須の装備であるといえる。

余談だが、気を付けなければいけないのは装備表に書かれる安全装備の数に注目するあまり、車体そのものの安全性を見落とすことがあってはいけない、ということである。いくら安全装備を充実させてもエアバッグ用のセンサーの設定が不適切であったり、車体そのものが脆弱では全く意味がない。IIHSの試験による2014年式リンカーン MKSや2012年式レクサス ES等はその最たる例である。