社畜のスーパーカー プロボックス試乗記

2017/05/21

試乗記



従来、乗用ワゴンの廉価改良型として作られてきた営業バンの世界に異色の専用設計で登場したのがプロボックスである。法人リースの叩き売り商品としてランニングコストと利便性のみを追求した仕様は、ある意味清々しさを感じるほどで、トヨタのラインナップの中でも傑作の一つと言っていいだろう。現行モデルは2002年に発売され、2014年にビッグマイナーチェンジされたものである。
車名の"プロ"は当然ながら"プロフェッショナル"の略であって、"プロレタリアート"(無産階級=社畜)の事ではない。


エクステリア

愛想のかけらもない箱型である。が、これによって大きな積載量と見切りの良さを実現している。個人的にはADバンの中途半端な形よりも好感を持てる(と言うより、ADは例のニコイチのごときデザインでよくOKが出たものだ)。
最低グレードのDXでは、バンパー、ドアハンドル、ドアミラーカバーまで無塗装樹脂という男らしい仕様。どうせ傷が付くのだからこれで良いという割り切りなのだ。勿論、車名ロゴもただのプリントである。

インテリア

これまた超絶無愛想な仕上がりだが、運転席周りは営業車としての工夫が多く詰め込まれている。まず、ステアリング横にはスマホや手帳の収納に使えるホルダーを装備。さらに引き出し式のトレーを備えたことで、休憩時に弁当を置くことが可能になった(昼食ごときでいちいち車外に出るな、ということであろう)。ドリンクホルダーは1L紙パックサイズ。各種収納はA4、B5規格に対応しており、サンバイザーの裏はカードホルダーになっている。また、マイナーチェンジでパーキングブレーキが足踏式となったことで、座席間にも収納スペースが増えている。とにかく、企業戦士の痒いところに手が届く設計と言って良いだろう。
シートはDXの場合、前席がヘッドレスト一体型のファブリック、後席が塩ビのベンチシートである。足元スペースは十分に確保してあるとはいえ、基本的に後席は折畳んだ状態で使用することを前提としており、あくまでも応急用である。工場構内だけの移動ならともかく、ヘッドレストもない煎餅のようなシートで公道に繰り出すのはお勧めしない。
荷室は開口部も大きく、積載性も良好。1,800x900のコンパネの平積みが可能である。ちなみに荷室床面は、プロボックスがADバンに対して全幅で勝るものの、前後方向にはADバンの方が20mm長くなっている。選定の際には、普段積み込む物との比較を必ず行うようにしたい。

走行性能

マイナーチェンジ後のプロボックスは、新たに変速機がCVTとなった他、パワステが電動式に変更されている。個人的には、改良前のステアフィールの方が好みであったが、現状でもまぁ、問題のないレベル。少なくとも、あらゆる操作系がユルユルのカローラフィルダーよりも好印象である。もっとも、そのような点を論じるような車でもないのだが……。
エンジンパワーについては、車体が軽量なこともあって、空荷のときには思いの外に軽快。見切りの良さと回転半径の小ささも相まって、大変運転がし易い。
乗り心地はやや硬めだが、リアサスペンションが重い積載物に備えてしっかりと作られているため、安定性は抜群である。もっとも、ボディやタイヤの性能は商用車のそれであるから、無理な運転は禁物(とは言うものの、客先との約束次第で無理を強行せざるを得ないのがこの車の悲しい運命でもある)。

自家用としてはどうか?

私はプロボックスの乗り味や機能性はかなり気に入っているが、では自家用でどうか、と聞かれると躊躇せざるを得ない。と言うのも、快適装備の重点があまりにも運転者のみに集中しすぎていて、同乗者への配慮という点では、他に良い車がいくらでもあるからだ(例えば助手席もエアコンのスイッチパネルが膝に当たって邪魔で仕方がない)。風切音やロードノイズが盛大に入ってくること、貨物車然とした足回りの仕様も同乗者には嫌われる要素となるだろう。安全装備にしても、決して十分とは言えない。
だが、そんなことはお構いなしで、趣味の道具として割り切ってしまうのならば、これもアリかもしれない。上級グレードのFならば、多少の快適装備と、オプションのカラードバンパーが装着可能なので、ある程度の格好も付くだろう。

ちなみに

プロボックスに限らず、マフラーに空き缶のような金属筒を付けている社用車を見ることがあるが、あれはスパレスターと言う防炎器である。発電所やコンビナートの出入りには必須のアイテムなので、これの有無で所有者の営業先が凡そ推察できる。

ちなみに2

プロボックスは車体が軽量であるため、競技車のベースとして使用するコアなファンも存在する。部品の調達が容易であることや、シンプルな構成故にカスタマイズの効果が出やすいこと、営業車でサーキットに繰り出すギャップ感がたまらないのだそうな。

諸元/プロボックス 1.5L DX 2WD


全長:4,245mm
全幅:1,690mm
全高:1,525mm

ホイールベース:2,550mm
トレッド:1,485mm(前)/1,465mm(後)
最低地上高:140mm
最小回転半径:4.9m

車両重量:1,090kg
車両総重量:1,615kg
乗車定員:2/5名

エンジン:1NZ-FE 直列4気筒DOHC/納期ターボ
総排気量:1,496cc
最高出力:109ps/6,000rpm
最大トルク:13.9kgfm/4,800rpm

燃料タンク容量:50L(無鉛レギュラー)
燃費:19.6km/L(JC08)

駆動方式:FF
変速機:CVT
サスペンション:ストラット(前)/トレーリングリンク車軸式コイルスプリング(後)
制動装置:ベンチレーテッドディスクブレーキ(前)/リーディングトレーリング(後)
タイヤ:115/80R14(前/後)