安全帯に見る日本の労働環境の悪さ

2017/09/30

社畜論

日本の労働環境の悪さを象徴するものに安全帯の普及率が挙げられる。命綱のフックを付けておく転落防止のアレである。これには大別して胴ベルト型とフルハーネス型の二種類が存在する。胴ベルト型は読んで字の如く、胴部に横一文字に付けるベルトタイプであり、フルハーネス型は肩から股下まで保持できる形状のものである(パラシュート降下用の装備を思い浮かべれば良い)。高所からの転落時、フルハーネス型の方が衝撃が肩や股下に分散されるため、安全性がより高いことは何となくお分かり頂けるかと思う。対照的に、胴ベルト型は転落時の衝撃が腰部に集中するため、死亡に至らなくとも重篤な後遺症が残る可能性を秘めているし、救助に時間がかかった場合、要救助者がくの字に折れ曲がった状態で宙吊りにされるという危険性もある(※1)。着脱の不便を受け入れてでもフルハーネス型を使用すべきであるのは言うまでもないことなのだ。

ところが、土木系やプラントエンジニアリング系企業の多くで使用されているのは前者の胴ベルト型なのである。フルハーネス型の普及率は約12.3%に過ぎない(※2)。欧米では普及率100%、韓国でさえ約80%を超えることを考えれば如何に低率であるかが分かると思う。一先進国として中国の竹の足場とシュロ縄の命綱を笑っていられない状況である。
これでは日本の若者どころか、新興国の出稼ぎ労働者にもそっぽを向けれるのも無理はない。最近は「人材よりも人財たれ」などという実に下らないスローガンが流行っているようだが、人間の価値を一番理解していないのが日本の経営者なのである。

※1しかも折れ曲がった姿勢は貯留タンクや地下ピットのマンホールからの要救助者引き上げを困難にするというオマケ付き。フルハーネス型では、宙吊りでも直立に近い姿勢となるので、救出しやすい。
※2平成25年神奈川県横浜北労働基準監督署の調べによる

厚生労働省では、平成29年6月13日に行われた検討会の結果を受けて、平成29~30年にかけて関連法令を再整備するそうである。ともあれ工事の発注元は、下請け、孫受けに科す無駄な安全関連書類を増やす前に、こういうハード面の規制を強化すべきであろう。