日産 スカイライン 試乗記

2018/08/05

試乗記


試乗記というタイトルにしているものの、実際は私の元愛車の話である。
そういえば自分の車の評価を全然していないじゃないか、ということに今更ながら気が付いたので、書いておくことにする。贔屓目無しになるべく辛口に書いたつもりではある。

新型が出る度に批判されるスカイライン

スカイラインと言えば、日本を代表するミドルクラスグランドツアラーである。
その歴史を振り返ってみると、常に「新型が出るたびに批判される」歴史の繰り返しであった、と言える。
特に、R34からV35へモデルチェンジした際には、そのエクステリアデザインの変わりようから「マーチセダン」などと呼ばれ、旧来のユーザーからは大不評であった。GT-Rが独立して高嶺の花となったことも理由の一つであろう。※
今回紹介するV37も、丸テールじゃないだの、デカイだの、何でインフィニティのエンブレムなんだ、と言われ放題であった。これも人気車種ゆえの宿命なのか、それとも実際に出来が悪いのか、ともかく乗ってみなければわからない。ということで、日産ディーラーへと向かったのであった。

※個人的見解を言えば、Rの系統を断ち切ったのは正解であると思う。遊び用のベース車としてならともかく、21世紀のスポーツセダンとしてあの内装のレベルはありえないし、購買層が縮小しているのだから高級高額化するのは当然の流れである。
むしろチャラチャラしない大人の車であった「ジャパン」以前に回帰したとも言えるのではなかろうか。

エクステリア

スカイラインの外観は非常に特徴的で、2009年に発表されたインフィニティ・エッセンスのデザイン要素を多分に取り入れている。特にサイドからリアにかけてのラインは日本車離れしたものがあり、是非実車で確認してもらいたいところだ。※
19インチホイール装着車は、ボディとの隙間も少なく、わざわざ車高を下げなくとも低姿勢感を感じるのも好印象であった。
ライバル(?)のクラウンアスリートが車幅の自主規制の影響で、酷く寸胴でみっともない姿をしているのとは対象的。一方で、ドアの開閉の質感(特に後席)は価格不相応に貧相で、この点はクラウンの圧勝であった。
フロントのデザインはグレードによって異なるが、これは購入者の好み次第と言ったところだろう。

※かなり立体的な造形なので、ボディーカラーは濃色系がオススメである。そういう意味で、60週年記念車に深い青色を設定した担当者のセンスは素晴らしいものであると思う。


インテリア

まず驚かされるのが、物入れの少なさ。収納に無頓着なスバル車でもスマホの置き場所くらいはあるというのに、それよりも少ないのだ。そのクセ私が一生使うことのない灰皿がしっかり装備されているのが謎である。
よく言われる後部座席の狭さだが、大人4人が乗る分には不自由はない。身長180cmの私でも天井に頭がつくことはなかった。ただ、足元にしても天井にしても決して余裕があるわけではないため、長時間乗るのは遠慮したいところ。

インテリアのアルミパネルは本物の金属パネルを使用。オプションでウッドパネルも選択可能だ。
全体的な部品の建付けやスイッチの操作感は良く、操作系もステアリング正面にまとめられているので使いやすい。※
ただ、メーターはMAXが180km/hというのは不満点。ブルーのリングが光るのも何だか安っぽい。視認性は良いのだが、スポーティーな印象には乏しい。
サイドブレーキが足踏式なのもマイナスポイント。今どき電動式だろう、と言いたい。

シートのレザーの質感は極普通。
肝心なホールド性は……あまりよろしくない。上半身の固定感はまずまずだが、腰から太腿にかけてがゆったりとし過ぎ。おそらくアメリカ人の標準体型に合わせてあるのだろうが、このせいで強い横Gをかける操作が難しい。車の限界が来る前に、シートの限界が尻から伝わってくるのだ。
視界設計も良くはない。完全にデザインの割りを食っていて、後方視界はもちろん、左前方の車両感覚も掴みにくい。Aピラーもやたらと太く、角度が悪いため、峠道でコーナーの先を見渡すのに苦労する。
はっきり言って、道幅や駐車場に不自由しないアメリカ向けの車という印象を強く感じる。

※私は、たまに見かける「クルーズコントロールのスイッチだけ取って付けたように棒状に生えている」タイプの車が大嫌いなのだ。

いざ試乗へ

本車は世界最速ハイブリッドセダンを名乗るだけあって、その加速は強烈である(0-100km/h加速は4.9秒)。アクセルをグッと踏み込むと体がシートに強く押し付けられる。
大排気量の自然吸気エンジンを積んでいるだけあって、常用速度域での加速は非常に楽で操作もしやすい。最近のダウンサイジングターボ車にありがちな、高速になればなるほどエンジンが苦しそうになる感じが無いのは嬉しい。
また、ハイブリッドだけあって発進時も静かで非常にスムーズである。トランスミッションの調子もスムーズで申し分ない。
ただし、ノーマルモードで急加速急減速をしたときに、加速のタイムラグやショックが発生する事があった。恐らくハイブリッドシステムのクラッチの制御の問題であろう。

ブレーキに関しては非常によく効く。曙ブレーキ製のどでかいキャリパーが付いているのだから当然といえば当然か。いわゆるカックンブレーキでもなく扱いやすい。ただ、ペダルはかなりのソフトタッチで、積極的に荷重変化に使うようなスポーティーな走りとは無縁な印象。あくまでも高級車として、静かに速度を落とすためのブレーキと言ったところ。
しかし、これもハイブリッドシステムの影響なのか、停止の寸前にエンジンブレーキの効き具合が変化し(制動力が弱くなる)妙な揺り戻しが発生するのが残念。

乗り心地に関しては、比較的硬めでショックを拾う方だが、履いているホイールや車の性格を考えれば非常に良いと言っていいだろう。また、シートのクッション性が良いので、背中への振動の当たりも穏やかだ。
ただ、厳しく評価すれば、ランフラットタイヤの履きこなしに関してはドイツ車のほうが明らかに上である。段差や道路の継ぎ目を通過した際の振動の収まり方に決定的な違いがある。

ステアリングの質感については、「速度域と走行パターンによる」としか言いようがない。この車のステアリングは、機械的に操舵機構と連動していないDASなる機構を積んでいるので、路面からのキックバックをシャットアウトしている。これがあるおかげで、高速道路の巡航中は非常に楽。しかも操作に対する応答性もクイックだ。
ところが、市街地や駐車場での取り回しとなると話が変わってくる。とにかく手応えが薄いのだ。例えば、BMWは3シリーズのようにお手頃な車でもパワステの設定がしっかりとしていて、据え切りをしてもどれだけタイヤの角度が変わったのか感触で分かるようになっている。ところが、スカイラインの場合低速時のパワステがとにかく軽く、しかも重さの変化が殆ど無いので、一気に一杯のところまで回し切ってしまう。おかげで慣れるまではバック駐車のたびに神経を使わねばならなかった。
恐らく、この設定になったのは「パワステは軽いほうが優秀。片手で動かせるくらいでなければならない」という思考回路の米国人か、国内の老人のためであろう。
スカイラインは、ステアリングの重さや変速機の特性などを細かく設定変更できる。が、はっきり言ってステアリングの設定はノーマルだけで十分だ。これ以上軽くする必要性はないし、重くしたところで今度はハンドルの太さが物足りなく感じるのだ。

その他

スカイラインのナビは2画面式でメーカー純正の造付けである。今どきの車らしく、オペレーターの呼び出しや、緊急通報、様々な通信機器との連動が可能で、非常に豊富な機能を有している。
だが欠点も多く、まず何よりも起動が遅い。それから操作へのレスポンスもイマイチ。最大の問題点は2画面の構成で、下段のタッチパネルは光沢パネルなので指紋の付着が気になるし、上段のナビ画面は打って変わってノングレアタイプの液晶で、車のイメージとミスマッチな一世代前の表示の質感である。そういえば、こんなのどこかで見たことあるな……あぁ、沖電気の業務用端末だよコレは。といったような質感なのだ。

総評

スカイラインハイブリッドはかなり癖の強い特異なキャラクターの車である。だから単純に「買いか?」と言われると返答に窮する。
この車がマッチする人は、

・高速道路を頻繁に、かつ長距離移動する
・車庫と自宅の周りの道路事情に不自由しない
・ナビの面倒なインターフェイスも楽に使いこなせる

という人々だろう。そういう場合には、この車は実に快適なロングドライブを提供してくれる。車両本体価格は高額だが、パワートレインの能力を考えれば、相当にお買い得だ。
一方で、単純に昔からスカイラインに乗っているから、という理由で乗り換えを検討している御老体がいた場合は、全力で止めたほうが良い。
市街地を走るのであれば、この車のパワーは不要であるし、むしろネガな部分のほうが目立ってしまう。ならばと2Lのグレードを選ぶのならば、今度はスカイラインである必要が無い。国内で取り回しの良いサイズの車であれば、輸入車も含めて他にも優秀な選択肢がいくらでもあるのだ。

結局私は3つの条件を満たしていたので、スカイラインを購入したわけだが、県境をまたいでの移動が減った現在では、より満足の行く車に乗り換えた※。私のカーライフの中でも、ずいぶんと賞味期限の短い車であった。

※現在長距離移動は専ら父と共同購入した540iである。普段使いの車は同じく輸入車であるが、個人が特定されかねない車種であるため、伏せることにする。


諸元/スカイライン 350GT HYBRID Type SP
全長:4,815mm
全幅:1,820mm
全高:1,440mm

ホイールベース:2,850mm
トレッド:1,535mm(前)/1,560mm(後)
最低地上高:130mm
最小回転半径:5.6m

車両重量:1,810kg
車両総重量:2,085kg
乗車定員:5名

エンジン:VQ35HR V型6気筒DOHC
総排気量:3,498cc
最高出力:306ps/6,800rpm
最大トルク:35.7kgfm/5,000rpm

モーター:EM34
最高出力:68ps
最大トルク:29.6kgfm

燃料タンク容量:70L
燃費:17.8km/L(JC08)

駆動方式:FR
変速機:7AT(マニュアルモード付)
サスペンション:ダブルウィッシュボーン(前)/マルチリンク(後)
制動装置:ベンチレーテッドディスクブレーキ(前/後)
タイヤ:245/40R19(前/後)