エライ営業とは何なのか

2017/03/16

ディーラーのお仕事

"エライ"営業って何だろう。と、考えたとき、その答えは評価する人間の立場によって全く変わってくることになる。


まず雇用している側、つまり会社からすればとにかく台数を売って利益を出す人間が優秀なのであり、それ以外の尺度はない。勿論、"車検入庫率"や、"台あたり粗利"などの細かい評価の内訳もあるが、結局はその一点に絞られる。企業の第一にして最大の目的は利潤の追求(※)なのだから当然である。また営業マン本人としても成績(=給与)の評価基準がこの通りであるので、目指すところは同じだ。つまり、楽して台数を稼ぐことが正義となる。これは一応一つの真実である。

ところが顧客の目線ではそうではない。自分の無理を聞いてくれるかだとか、人間性がどうだとか、提案の仕方がどうだとか、有り体に言えば直接金にならぬ部分が尺度として登場してくる。これは厄介だ。会社は短期的に利益の出るものから優先順位をつけて評価している(※2)のに、客の方は新車の購入から諸々の点検、次の乗り換えまでの一連のサイクルに対するサービス全体に評価を下しているのだ。ここが自動車の営業の難しいところで、単なる使い捨ての消費財を売るのとは異なる部分である。
会社の基準では、"せっせと顧客にサービスして喜ばれるが、売れないセールス"よりも"サボってばかりでも台数を売るセールス"の方がエライのである。「いちいちアフターサービスに時間をかけずに新規の商談に時間を使いたい」と、誰しも考える。「とは言え、既存客に御座なりな対応ばかりだと心象を損ねるだろうし……。でも、ちょっと親切心を出したところで会社は評価してくれないし時間の無駄ではないのか……」と、営業マンは相反する要求の下で苦しむのである。

これは実際に私の知る営業マン(仮にA氏とする)の話である。A氏は私が在籍していた当時拠点のトップ営業マンであって、管理職の面々からの評価も高かった人物である。が、その実態と言えば、とにかく新規客狙いで台数をさらうタイプで自分の管理している既存客への対応は良いとは言えなかった。点検入庫の対応や時には試乗希望者の同乗案内まで同僚(特に新人)に押し付けている姿がよく目についたのを覚えている。
営業所で最年長の先輩(B氏とする)がこれに苦言を呈したことがある。B氏は所謂知恵袋的存在で、私も大変お世話になった方である。曰く、
「Aのやり方は真似するなよ。新規が来るっていうのは商品が良いからに過ぎない。それがダメになった時、ああいうのは長続きしない。いざとなったら助けてくれるのは普段付き合いのある客だけだ。新規の5台よりも、代替の1台、紹介販売の1台の方がずっと価値がある」
さて、あなたなら両氏のどちらを見倣おうとするだろうか。おそらく賞与の多寡だけで判断すればA氏なのだろうが……。



※「我が社は社会貢献を第一」に、などと言うのは全くの嘘っぱちである。人間が本質的に自由勝手な状態を求めるのと同じく、企業も利潤の追求のために好き勝手しようとするものである。ところが、その度合がすぎれば他者との紛争を生じてしまうため、社会なる上位の存在(調整役)を構成し、そこに自分の持つ自由の一部を差し出すことで、より大きな利益を保護しようとするのである。この自由の分前が、国家や社会に対して負う義務や責任だとか、労使間の約束事だったりするわけである。

※2 新車販売台数>点検入庫>保険etc、という具合にである。うちはCSも重視してるぞ!という販社もあるかもしれないが、果たしてどれだけ評価に反映されているやら。もっとも、"頑張ったで賞"評価システムだけでは成り立たないのも事実なのだが。