名門ブリストル自動車

2018/06/17

名車・珍車



ブリストル?聞いたことないよ

ブリストルといえば、私のようなミリタリーマニアの中では航空機メーカーとしてのイメージのほうが大きい。例えば、加藤建夫中佐と戦ったブレニムや、ニューギニア方面でも活躍したボーファイターは非常に有名である。現在ブリストルの航空部門はとっくの昔に吸収再編されBAEの一部となっているが、今回紹介する自動車部門の方は今だ健在。設立は終戦後間もない1945年で、会社の余剰人員を集める形で事業をスタートした。
が、その存在は超マイナーどころか、超を10乗しても足らないくらいのマイナーさである。宣伝はほぼ皆無。欲しい人だけに売るマニアックセレブ向けの超高級ブランドなのである。

Bristol Cars Official Site

それにしても変な車ばっかりだ

最初に製造したのは1946年に登場したType400(Wikipedia:en)。どう見ても当時のBMWそのまんまパクリであるが、設計者が同じ人物なのである。そして1961年にはクライスラー製の313cu-in(5.1L)V8を搭載したType407(Wikipedia:en)が登場する。
ここまでは至極真当である。

……ところが、この辺りからブリストルの方向性は妙な方向へと動き出す。
車体デザインの進歩はこの時代から急減速。(彼らなりに近代化はしているのだろうが)圧倒的に時代の流れから取り残され今日に至るのである。
(車体の工作精度も60年代据え置きなんて話もあるが、気にしないのが紳士・淑女というものらしい)
そんなわけで、Type603(Wikipedia:en)なんていう70年代丸出しの車が2011年まで新車で買えるという素晴らしい事態になってしまった。
Type603は1976年の登場後、603S2(1978年)、603S3ブリタニア/ブリガンド(1982年)、603S4ブレニム(1994年)と順次マイナーチェンジを行っているが、基本的な構成は全く変わらず、エンジンや電装系のアップデートが主となっている。

「カーナビのアンテナはもちろん熱線入りリアガラスすら見えないんだけど!」
だけど車速感応式サスペンションはオプションで選べる。それがブリストルクオリティ。


つい最近まで主力車種であったブレニム……。これでも21世紀の乗り物なのだ。
エンジンはクライスラー製のV8エンジンを装備し、354hp/5,500rpm,500N・m/4,000rpmを発揮。今時珍しい円盤型のエアクリーナーを拝むことも出来る。勿論、燃費も激悪で8km/Lも走れないのだが、紳士たるものそんなことは気にしない。一人くらいCO2を出しまくったって、山火事や火山の爆発に比べれば些細な問題だ、と割り切ってしまおう。
パフォーマンスについては0-60マイル加速が6.1秒、最高速度は158mph(254km/h)、パワーを気にする紳士淑女も満足できるはずである。
それ以外の詳しいスペックは……不明である。
先に公式サイトをご覧になった方は気付いたと思うが、全くもって説明が簡潔なのである。諸元表すら無い。ショールームで顧客に見せることを重視しているのか、基本的に派手な宣伝を行わないスタイルの会社なのである。メディア向けの広報車も最近になって用意したらしいが、見せるだけで試乗はさせないらしい。まぁ、彼らは贔屓の車種以外には文句を言うだけで、購入することはないからどうでも良いのかもしれない。
この辺はオーナーズクラブも承知していて、詳しいテクニカルデータやメンテナンスのやり方については、会員以外には秘密とする方針をとっている。あくまでもセレブな好事家だけの世界なのだ。

気になる値段はちょっと……いや、かなり高い。ブレニムの末期価格は250,000米ドルに達するのだ。普通にJaguar・XJが買える価格なのだが、それでも変態紳士はブリストルを選ぶのだ。
※もちろん同時期のXJやデイムラー・スーパーエイトにはカーナビが付いているし、もっと快適であるし、環境性能だって優れている。

欲しい方はロンドンに極秘裏につくられた店(ケンジントンのヒルトン・ロンドン・オリンピア一階)へ直接足を運ぶ必要がある。
一応、ブリストルの名誉のために言っておくと、この会社、アフターサービスはかなり親切である。かなり古い個体であっても、きっちり部品供給がなされるという。

実はスーパーカーもある!

そんなブリストルが2004年に発売したのが、ちょっと趣の違うファイター(Wikipedia:en)で、上品なデザインとゴルフバッグを積める実用性を融合させたスーパーカーだ。
ベースモデルはダッジ・バイパーと共通のV10エンジン(8L)を改造して搭載。最高出力525bhp/5,500rpm、最大トルク712N・m/4,200pmで0-60マイル加速は4秒、最高速度は340km/hである。加えて628bhpまで出力を向上させたファイターSも用意されている。
発売直後からファイターには(特定の人々からの)人気が殺到。さらなるパワーを求める声に応じて2006年にターボ過給モデルが登場する。このファイターTは、出力が1,012bhp/5,600rpm、最大トルクが1,405N・m/4,500rpmに向上したほか、ボディの空力特性も見直されている。明らかにパワーに対して車体側の性能が追いついていないため、0-60マイル加速は3.5秒以内、最高速度は362km/hに制限されているとのこと。6MTと4ATが選択可能である。ブリストルの支持者からは「ヴェイロンよりお買い得!」と好評らしい。比較対象がおかしい……。TVRとかいう魔窟が滅んだ途端にこれだよ!

倒産したけど復活した!

そんなブリストルも2011年、ついに経営の悪化からスイスのカムコルプグループの傘下に入ることとなった。が、相変わらず懲りもせずに2016年、新たにレトロデザインの車を市場に送り出してきた。それがオープンスポーツのブレットで、今度はBMWのエンジンを採用しているという。価格は25万英ポンド(!)で(一部の人々から)注文が殺到中であるという(!!)
V型8気筒4.8L 375hpの迫力を6MTと1,130kgのオープンボディで味わいたいという人は是非ロンドンへ。